2010年4月6日火曜日

ベルリン・フィルのコンサート・ホールで聴く(2000年6月)

一、ベルリン・フィルのコンサート・ホール
 総勢28名で成田を出発した新ドイツ紀行12日間のフレンドツァーも6月9日のベルリンが最終行程である。午後の自由時間を利用してベルリン・フィルハーモニーのコンサート・ホールで聴いてみたいと思う。

 ハンス・シャロウン設計のこのホールは音響の素晴らしさに定評があり、東京サントリー・ホールも手本にしたという。テント張りのサーカス小屋のような外観と、ベルリン・フィルの常任指揮者を永年務めたヘルベルト・フォン・カラヤンの名をとって「カラヤン・サーカス」とも呼ばれている。大ホールは単にPhilharmonieまたはPhilharmonie Grosser Saal、小ホールはKammermusiksaal der Philharmonie 略してPhilharmonie KMSと称されている。

 まず「ベルリン・プログラム・マガジン」6月号(DM3.00)で公演予定を調べる。コンサートの部Philharmonie会場では9日19時30分より「RIAS室内合唱団とベルリン古典音楽アカデミー」によるヘンデルの「Israel in Egypt」とある。KMSでは20時よりチェロ・コンサートと記されている。明10日(土)11日(日)なら大ホールでベルリン・フィルハーモニーが聴けたのだが・・・。なお7月2日にはKMSで林 英哲の和太鼓「鼓童」の公演があるという。

二、ポツダム広場 
 当日券を入手すべく早速ポツダム広場に向かう。ツォー駅の赤い刻印機でABセクション1日乗車券(DM7.80)に日時を刻印して、地下鉄U2号線のプラットフォームへ。Vinetastr行きに乗って7つ目がポツダム広場駅である。この付近は、旧東独地区で都市再開発事業が大規模に進行中である。駅出口すぐには真っ赤な工事監督オフィスが聳えている。広範囲な工事現場が見渡せるよう、背の高い仮設ビルである。

 道端の物売りに「カラヤン・サーカスは?」「ベルリン・フィル・ホールは?」と尋ねるが、首をすくめるばかりで要領を得ない。「ではブランデンブルク門は?」と聞き出してその方角に地図を合わせる。ホールの方向に見当を付けてしばらく歩くと、サーカスのテントのような例の建物の一端が見えてきた。それは14日竣工予定のソニー・センターの向こうにあった。

三、大ホールの当日券
 ようやくたどり着いた裏門の守衛?に当日券売り場を尋ねると正面入り口の方で、発売時間は15-18時だという。日本のように開演直前まで売るということは無いらしい。時刻は14時40分を過ぎている。結構大回りの経路を正面入り口に急ぐ。

 もう既に十数人が並んで開門を待っている。最後尾の娘さんに「プログラム・マガジン」のRIASの項を指して「この当日券の列ですか?」と聞くと「ウィ」との返事。フランス人のようである。
 丁度15時にオープン、入館したが左右両方に券売窓口があってしばし惑う。中年の女性係員が声高に喋るがよく聞き取れない。例の「マガジン」を指して確かめると左側だという。ここでも窓口が(1)(2)と二つあって、どうやら(1)が大ホール(2)が小ホール分のようである。(1)の窓口でまた又「マガジン」を持ち出して演目RIASの念を押し「2枚」と申し込む。A席DM48 、B席DM38の当日券をガラス戸越しに提示してくれる。座席表で見るとB席でも日本のA席並である。(A席は日本ならS席相当)。

 漸く大ホールの当日券入手。昼食は16時近くになってしまった。なお前日クーダム通りのドイチェ銀行で両替したときの為替レートはDM1=約¥55であった。
 それでも大急ぎながら100番バスでベルリン名所をあらためて巡覧する。二階バスなので、映画「ベルリン・天使の詩」で天使が休息する金色のジーゲスゾイレなどは一層まじかに見ることができた。Sバーン・Uバーン共通のアレキサンダー広場駅からは地下鉄でホテルに帰る。

四、着席のマナー
 服装を整えて18時30分ホテルを出る。ダーク・スーツにネクタイ着用である。開演20分前ながら会場前には沢山の人々が屯している。必ずしも人を待ち合わせている様子でもない。館内に入ると広いクロークには傘・コートを懸けるハンガーが無数に設けられている。当日は天候にも恵まれていたのでその必要はなかった。

 案内嬢よりプログラム(DM3.80)を買い、指定席への入り口を確認してホールに入る。しかし、まだ半分も着席していない。奥の席へ行く人のために、その都度席を起って通して上げなければならぬからである。奥の人ほど早めに着席して、順次入り口寄りの人が席に就いて貰えるようにするのが着席のマナーであろう。A・B・C席はほぼ満席、D―G席はまだ余席がある。ステージの背後H席は発券しなかったのか全部空席である。その後ろK席となると人影もまばらであった。

 すり鉢状のコンサート・ホールなので幕・緞帳の類は無い。19時30分、オーケストラの40名がステージに上がる、続いて合唱団員の約50名とソプラノからバスまでのソリスト6名が席に就く。指揮者マルクス・クリード氏が指揮台で一礼して、いよいよ演奏開始である。

五、「エジプトのイスラエル人」
 「Israel in Egypt エジプトのイスラエル人」は旧約聖書第二巻「出エジプト記」で、モーゼに導かれてエジプトを脱出する以前のイスラエル民族の苦難を題材にした叙事詩を、ドラマチックに歌い上げた3部構成の壮大なオラトリオ(聖たん曲)である。1739年ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデルが作曲したこのオラトリオは、1736年「アレクサンドルの饗宴」・1741年「メシア」と共に、劇音楽家としてのヘンデルの名声を揺るぎないものにした。オルガン、チェンバロや中近東で見かける長棹のラウテ(最古の弦楽器)が合奏されるのも古典宗教音楽らしい。

 モーツアルトやハイドンにはない宗教的荘厳さが漂う中、オーケストラの伴奏に乗せて合唱団、ソプラノから始まってテノール・バスまでのソリストが次々に立ち上がって、夫々の持ち場を歌唱する。

六、清聴のマナー
 楽士の楽譜をめくる音とコーラス団員が歌ったあと着席するときの微かな衣擦れの音が耳につくだけで、客席からの物音は一切しない。この静謐さは流石である。帰国後、新聞に「フラッシュ撮影のためオペラ“椿姫”が中断された。その後続演されたものの感動半減で誠に残念」との投書が載っていた。清聴のマナーはお互い大切にしたいと思う。

七、幕間を楽しむ
 約40分で第一部が終わると皆一斉に席を離れる。ロビーや館外の庭園に設けられた立食用の高いテーブルを囲んでグラスを傾ける男女、吹き抜けのロビーで幕間のロビー・ミュージシャンに聞き入る人々、2・3階のロビーの手摺りに寄りかかってこれらを眺める人たちなど、さながら夜会ムードを楽しむ風情すらある。

 6月4日(日)20時頃、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場前を通り合わせたとき、丁度オペラ(この日はベリーニの名作「清教徒」を公演)の幕間らしく、正装に近い大勢の男女が館外の階段に佇んで談笑しているのを見かけた。そういえばこのベルリン・フィルのホールの庭園も外の道路に対し何の障壁もない。したがって人の出入りは自由であるが、着席などの問題は起こらないらしい。

 30分の休憩時間のあいだ、トイレの混雑も無く幕間を充分楽しんだ後、整然と着席する。勿論チケットの再チェックなどはしていない。

八、クライマックスを前に退出
 第二部では大太鼓やティンパニーも入ってかなり劇的に盛り上がってくる。約40分の演奏の後、盛大な拍手が続く。時刻は21時20分過ぎである。このあと休憩、第三部、アンコールと続くと終演は23時近くになりそうである。第三部のクライマックスに心惹かれながらも明朝のベルリン出発に備えて退出、帰途についた。サマータイムのせいもあるが、まだ夕闇には程遠い明るさである

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